森絵都『みかづき』
『みかづき』は、学習塾を創設した一家の物語。しかも、3世代にわたる大河小説です。
八千代塾から千葉進塾へ
主役がどんどん交代していくので、読んでいる人はどこかで自分と同世代に出会います。
たとえば、小学校に通う蘭は、『巨人の星』や『アタックNo.1』の主題歌を歌い、路上にはマツダの白いファミリアが。「幸福の黄色いハンカチ」(1977年)も真っ赤なファミリアでしたね。
塾って何?の時代から、世間から白い目で見られる時代を経て、通塾が当たり前の時代へと、時が流れていきます。その間、塾と背中合わせにあるのが学習指導要領です。
学習指導要領とは
学習指導要領は、およそ10年に1回改訂されます。だから、小学校入学から高校卒業までの間に、ほとんどの人が改訂を体験するのです。教科書の刷新、入試制度の改革という目にみえる形で。
1971年(昭和46年)版は、ちまたで現代化カリキュラムと呼ばれました。ことの発端は1957年の人工衛星スプートニク1号です。これをきっかけにアメリカ人は「スプートニク・ショック」に陥り、科学技術を発展させようとやっきになりました。その熱病が日本にも遅れてやってきて実を結んだのが、現代化カリキュラムです。
小学生に集合を教えるという無謀なことをはじめました。典型的な詰め込みカリキュラムです。それゆえ、高校の生物の教科書は見違えるようにモダンになりました。
それで高校受験が悲惨になったかというと、そうではありません。たとえば東京都では学校群制度が1967年からはじまっていて、それ以前の受験戦争はすでに緩和されていました。
そうやって考えると、1960年前後生まれの世代が、モダニズムの落とし子かもしれません。ここで落ちこぼれなかった人は、幸いです。
共通一次試験
その70年代に登場したのが永井文部大臣です。東大への一極集中をやめて、分散しようとしました。富士山信仰をやめて、八ヶ岳へと。その結果生まれたのが、共通一次試験です。1960年ジャスト生まれが一期生となりました。
何らかの意図をもって、学習指導要領は改訂され、そのたびに現場は混乱します。その間隙を縫って躍進したのが学習塾です。小説の中でも津田沼戦争が出てきます。同業他社との争いです。
勝ち組として生き残った千葉進塾は、バブル時代に拡張路線をとりませんでした。「守りに入るとは、鉄の女も年をとったもんだ」と揶揄されつつも。それが幸いして、バブル崩壊後も深手を負うことはありませんでした。
そこで千秋の転調が入ります。「考えるカリキュラム」の復活をめざして、私学に参入しようと。しかし、それは夢幻の世界でした。まるでお能のように。
クレセント(みかづき)
ここで、孫にバトンタッチ。ゆとり世代の1つ年上が登場します。就活戦線から離脱し、フリーターとなった一郎は、やっと自分のできることを見つけます。経済的な事情で塾に通えない子たちへの学習支援です。やがて支援者も現れ、フリースクールも軌道に乗りました。
ラストがいいですね。一郎がじいさんに彼女を紹介するところで終わります。因果は巡る。それを彷彿とさせるシーンです。何が因果かは読んでのお楽しみ、ということで。
新しい職場で働く人へ
できる人は、本を読まなくても行動します。そうでない人にとっては、本が役に立ちます。
新卒向け
新人と書いてありますが、はじめて後輩を指導する人に最適な本です。たぶん、ほぼ日あたりが絶賛しているはずです。
転職した人向け
四角大輔『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』
これは売れたようですね。20代と書いてありますが、30代向きです。20代はむしろ蓄えた方がいいと思います。本を読み、仕事で鍛えられ、バックパッカーとして歩く。貯金をはたいてでも、体験が大切。捨てるのは、それからです。いったんため込んでみないと、何が不要かわかりません。
お二人とも、サラリーマンとして力を養い、その後独立しました。自分が若い時に、こういう方と出会っていたら、ロールモデルとしたでしょう。
お金のことで新社会人に伝えたいこと
旧人類からのメッセージです。お急ぎでなければ、どうぞ。
天引き貯蓄法
最初にもらった給料を何に使おうか、今から楽しみですね。でも、その前にやっておくことがあります。天引きの貯金の手続きです。一般的には、財形貯蓄になるでしょうか。大きい会社なら社内預金があり、金利の上乗せがあります。
1万円でもいいから、とにかく始めることです。あれこれ迷って、チャンスを逃さないようにしましょう。身近なところにもいるんですよ、いまだに貯金できないのが。もう中堅社員なのにね。最初が肝心です。
口座を開く
会社で指定されていれば、問答無用です。そうでなければ、地元の銀行をメインバンクにしましょう。ネット銀行は、公共料金の引き落としや還付された税金の振込先には向かないので、サブバンク扱いです。
地元の銀行であれば、災害時に通帳・印鑑なしで、20万円まで受け取れます。ですから、口座の残高が20万円を下回らないようにしましょう。
余裕ができたら、ゆうちょ銀行にも30万円を確保します。これも災害時用です。生活防衛資金がどうとかの議論に惑わされる必要はありません。地震や火災があっても、50万円あれば当面はしのげるでしょう。
節約上手だと、1年もすると預金残高が大きくなってきます。放置すると、銀行から営業の電話がかかり、よからぬ商品を売りつけられます。そうならぬよう、天引きの金額を増やしましょう。
クレジット・カード
社会人になれば、クレジット・カードが使えます。最初は、キャッシングとリボルビング払いは厳禁です。いつも一括払いで利用します。ただし、海外旅行するときは、一時的にキャッシングできるようにしておきます。円を現地で両替するときの手数料よりも、キャッシングの金利の方が安いからです。
細かい話をすれば、きりがありません。とにかく、滑り出しが大切です。それでは、楽しい会社生活を。
朝井まかて『銀の猫』
十朱幸代が千秋実を介護する映画*1がありました。『銀の猫』は、介護をテーマにした時代小説です。
お咲は、バツイチ25歳の介抱人。訪問介護を生業としている。3日泊まり込み、1日休みをとるのが基本ローテーション。しかし、ご指名が多くなかなか休めない。
新しい介抱先に出向き、介抱のめどがたったら、別の介抱人や身内に後をゆだねる。お咲は、自分の仕事をそんな橋渡しと心得ている。
江戸時代、年寄りの介抱を担っていたのは男だったそうです。町人も武家も。奥さんがやる義務はなかった。一家の主人が差配するのが孝の原則だったので、お金にゆとりがあれば、介抱人を頼んだりもした。これは知りませんでした。
時代小説でありながら、老碌の症、老老介抱、無尽講など、現代と共通するフレーズが出てきます。「介抱は、一人と二人ではできることが天と地ほど違うのだ」。御意。
とくに「狸寝入り」の章は、思わず笑みがこぼれてしまいました。私も、狸寝入りができるように修行いたしましょう。寝た子?は起こさぬよう願います。
*1:花いちもんめ(1985)
リーダーは偉い
アイコンが山になっているので、ちょっとだけ書きます。
むかしはグループで山に入ったのですが、あるときからピタリとやめました。その理由は、リーダーに従うのがいやになったからです。もう歩きたくなくても歩かされる。
リーダーが決めたように行動するのは、メンバーの義務です。たいていの場合、リーダーはメンバーよりも正しい決断を下します。
引率した先生は、地元で何度も通い、部員を指導してきたのでしょう。生徒は、経験豊富なリーダーの言うことを聞きます。でも、私のように疑問に思った子もいたのではないでしょうか。なんで、こんな天候なのに登るのかと。
吹雪いていたので、そんな余裕はなかったでしょうか。もし私がリーダーなら、すぐに訓練中止です。楽しみにしていた生徒たちは、貴重な体験を積むチャンスをなくします。リーダーが無能で、臆病だからです。
どちらにしても、決めるのはリーダーです。メンバーの命に対して責任があるのだから。
西堀栄三郎『南極越冬記』(岩波新書 青版)
これ、ドラマになってますね。西堀役が香川照之でした。私が理想とするリーダーです。